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東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)116号 判決 1982年4月22日

原告

オデコ・ニホン・エス・エイ

右代表者

ヒュー・ジェイ・ケリー

右訴訟代理人

高島信之

乗杉純

右訴訟復代理人

西山安彦

遠藤一義

須山伸一

奥山量

被告

芝税務署長

小田虎雄

右指定代理人

遠藤きみ

外七名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた判決

一  原告

1  被告が原告に対し、昭和四九年八月二四日付けでした原告の昭和四六年二月二七日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和四六年度」という。)、昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和四七年度」という。)及び昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下(昭和四八年度」という。)の各法人税の決定及び無申告加算税賦課決定(ただし、昭和四七年度は昭和五三年五月二四日付け審査裁決により一部取り消された後のもの。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  原告の請求原因

一  原告は、パナマ共和国法人である。原告の昭和四六年度、昭和四七年度及び昭和四八年度(以下「本件係争年度」という。)の各法人税の課税経過は、別表一ないし三記載のとおりである。

二  被告が昭和四九年八月二四日付けでした右各法人税の決定及び無申告加算税賦課決定の処分(ただし、昭和四七年度は昭和五三年五月二四日付け審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件処分」という。)には、次の違法があるから取り消されるべきである。

1  原告は、外国法人であり、かつ、国内源泉所得を有しないから、法人税の納付義務を負わない。

2  原告は、本件処分前の昭和四八年に、東京国税局から、本件処分に係る所得について、原告には法人税の納付義務があるから所轄の被告に対して確定申告書を提出するようにとの指導を受けた。そこで、原告は、昭和四九年三月八日付けの陳述書をもつて、東京国税局に対し、種々論拠を挙げて原告には法人税の納付義務がない所以を主張したが、被告は、同年八月二四日付けで本件処分をなした。このため、原告は東京国税局長に対し、同年一〇月二三日付けで右陳述書と同じ理由をもつて本件処分についての異議申立をした。東京国税局長としては、本件処分の段階で右陳述書記載の原告の主張を検討ずみのはずであるから、右異議申立てに対しても直ちに決定をなし得たはずである。しかるに、東京国税局長は、昭和五一年六月一五日になつてようやく異議決定を行つた。右異議決定に対し、原告は、同年七月一二日付けで右陳述書を添えて国税不服審判所長に対し審査請求をなしたが、被告及び東京国税局長からは原告に法人税の納付義務があることを論拠づけるに足りる主張や資料が全く提出されず、また、国税不服審判所長も、この点に関して被告らに対し釈明をしないままに日時を経過し、昭和五三年五月二四日になつてようやく審査裁決を行つた。

以上のように、被告及び東京国税局長の責任で、原告が最初に陳述書を提出してから審査裁決がなされるまでの間に四年余の長期間が空費されることになつたが、かように遅延した行政不服審査手続は、当事者救済の役割を果たさず違法である。また、国税通則法八四条五項及び一〇一条一項の規定によれば、異議決定書及び審査裁決書には理由を附記することを要し、かつ、不服申立てに係る処分の全部又は一部を維持する場合の理由においては、維持される処分を正当とする理由が明らかにされていなければならないところ、本件の異議決定書及び審査裁決書は、原告主張の大部分について一言も触れず、理由らしい理由を示すことなく原告には法人税の納付義務がある旨一方的に断定したもので、理由附記不備の違法がある。そして、以上の行政不服審査手続の違法は、本件処分を違法ならしめるものである。

第三  原告の請求原因に対する被告の認否

一  請求原因一は認める。

二  同二は争う。

原告は、異議申立て及び審査請求の審理手続が著しく遅延したこと、異議決定書及び審査裁決書の理由附記に不備があることを理由に本件処分は違法である旨主張するが、これらはいずれも本件処分後の異議申立て及び審査請求に関する事柄であつて、本件処分自体の違法事由とはなり得ないから、右主張はそれ自体失当である。

第四  被告の主張

一  原告の事業活動

1  原告は、国土総合開発株式会社の一〇〇パーセント出資に係る訴外ジルド・インターナショナル・エス・エイ(パナマ共和国法人。以下「ジルド・インターナショナル」という。)と、オーシャン・ドリリング・アンド・エクスプロレーション・カンパニー(アメリカ合衆国法人。以下「オデコ本社」という。)の一〇〇パーセント出資に係る訴外カナム・オフショア・リミテッド(英領バハマ法人)とが、それぞれ五〇パーセントずつ出資して昭和四五年三月一〇日に設立したパナマ共和国法人であつて、その事業目的は、海底石油及びガス井の掘削、開発等とされている。

2  西日本石油開発株式会社(以下「西日本石油開発」という。)は、昭和四五年三月一三日オデコ本社との間で、西日本石油開発が試掘権を有する日本沖合の大陸棚地域においてオデコ本社が油井の掘削作業等を行う旨の沖合掘削請負契約を締結し、原告は、同日オデコ本社から右請負契約に係る一切の権利義務を譲り受けた。西日本石油開発は、鉱業法に基づき、広島通商産業局長等から島根県、山口県及び長崎県沖の大陸棚に石油、可燃性天然ガス等の掘採を目的とする試掘権の設定を受け、同年一一月二五日から昭和四七年四月二〇日までの間に順次その旨の登録をした。そこで、原告は、右沖合掘削請負契約に基づき、石油、可燃性天然ガス等の開発を目的として、昭和四六年二月二七日から昭和四七年一一月九日まで及び昭和四八年三月一一日から同年七月一八日までの間に右鉱区内の大陸棚(いずれも日本の領海外にあるもの)において、海上掘削装置(以下「リグ」という。)を使用し、合計八本の試掘井(水深一三二メートルないし一九二メートル)の掘削作業を行い、西日本石油開発から右掘削作業に係る対価の支払を受けた。

3  帝国石油株式会社は、鉱業法に基づき、仙台通商産業局長から福島県楢葉町沖約三七、三八、三九キロメートル及び同県原町沖約四五キロメートル付近海面下の大陸棚に石油及び可燃性天然ガスの掘採を目的とする試掘権の設定を受け、楢葉町沖の鉱区については昭和四八年五月二二日、原町沖の鉱区については同年六月二一日それぞれの旨の登録をし、更に東京通商産業局長から茨城県日立市沖約二〇キロメートル付近海面下の大陸棚に同一物の掘採を目的として試掘権の設定を受け、同年八月二八日その旨の登録をした。一方、同社は、エッソ・アブクマ・インコーポレーテイド(アメリカ合衆国法人。以下「エッソ・アブクマ」という。)との間で、右鉱区における油井の掘削請負契約を締結し、エッソ・アブクマは、同年六月一日西日本石油開発から、同社が原告に対して有する前記沖合掘削請負契約に係る権利義務一切を譲り受け、原告に右鉱区での石油及び可燃性天然ガス開発のための試掘井の掘削作業を依頼した。そこで、原告は、同年七月二五日から昭和四九年七月八日までの間に、右鉱区内の大陸棚(いずれも日本の領海外にあるもの)において、リグを使用し合計五本の試掘井(水深119.5メートルないし154メートル)の掘削作業を行い、エッソ・アブクマから右掘削作業に係る対価の支払を受けた。

4  なお、原告は、ジルド・インターナショナルとオデコ本社とがそれぞれ五〇パーセントずつ出資して設立したオーシャン・コントラクト・サービスィーズ・エス・エイ(パナマ共和国法人。以下「オーシャン・コントラクト」という。)との間で、原告の業務の代行についての協定を結び、本件処分当時、オーシャン・コントラクトの日本における営業所(東京都港区芝西久保明舟町二五番地秋山ビルディング内)をもつて原告の事業活動の実質的な本拠としていた。

二  原告の納税義務

1  法人税法四条二項及び九条の規定によれば、外国法人は、同法一三八条に規定する「国内源泉所得」を有するときは法人税を納める義務があり、その課税所得の範囲は、各事業年度の所得のうち同法一四一条各号に掲げる外国法人の区分に応じ当該各号に掲げる国内源泉所得に係る所得とされているところ、原告の前記一の2及び3の掘削作業(以下「本件掘削作業」という。)による所得は、同法一三八条一号が国内源泉所得の一として定める「国内において行なう事業から……生ずる所得」に該当し、原告は、同法一四一条二号の「国内において……その他の作業……を一年をこえて行なう外国法人」に該当する。したがつて、原告は、各事業年度の所得のうち、本件掘削作業から生ずる所得について法人税を納める義務がある。

2  法人税法二条一号は、「国内」の意義について、「この法律の施行地をいう。」と規定している。そして、「この法律の施行地」を地理的にどの範囲とするかということについて特別の規定はないが、「この法律の施行地」とは、我が国の課税権の及ぶ地域全体を指すものにほかならない。そして、原告が石油、可燃性天然ガス等の鉱物資源の開発を目的として本件掘削作業を行つた地域は、次に述べるとおり、我が国が鉱物資源の探索・開発に関して主権的権利を有する大陸棚にあり、我が国の課税権が及び、「この法律の施行地」、すなわち法人税法上の「国内」に該当する。したがつて、本件掘削作業による所得は、「国内において行なう事業から……生ずる所得」に該当するのである。

3  本件係争年度(昭和四六年二月二七日から、昭和四八年一二月三一日まで)当時、既に、大陸棚における鉱物資源の探索・開発に関し沿岸国が主権的権利を有するという慣習国際法が存在していたのであり、我が国も当然にかかる主権的権利を有していた。

(一) 昭和二〇年九月になされたアメリカ合衆国のいわゆるトルーマン宣言以来、メキシコ、パナマ、アルゼンチン、チリ、ペルー、ブラジル、イラン、イスラエル、ポルトガル、パキスタン、フィリピン、インド、韓国、オーストラリア等多くの沿岸国から大陸棚に対する主権ないし主権的権利の主張が相次ぐに至り、そのため昭和二六年には国連国際法委員会により「大陸棚に関する条約草案」が作成され、昭和三三年四月二九日には国連海洋法会議において「大陸棚に関する条約」(以下「大陸棚条約」という。)が採択された(なお、同条約は、アメリカ合衆国、イギリス、ソ連等を含む二二か国の批准又は加入を得て昭和三九年六月一〇日に発効し、締約国数は現在五〇か国以上にのぼっている。)。

(二) 大陸棚条約は、大陸棚(同条約一条は、「この条約の規定の適用上、「大陸棚」とは、(a)海岸に隣接しているが領海の外にある海底区域の海底及びその下であつて上部水域の水深が二〇〇メートルまでのもの、又はその限度をこえる場合には上部水域の水深が前記の海底区域の天然資源の関発を可能にする限度までのもの、並びに(b)島の海岸に隣接している同様の海底区域の海底及びその下をいう。」と規定している。)に対する沿岸国の権利について、その二条で、

「1 沿岸国は、大陸棚に対し、大陸棚を探索し及びその天然資源を開発するための主権的な権利を行使する。

2 1にいう権利は、沿岸国がその大陸棚を探索しておらず又はその天然資源を開発していない場合にも、他のいかなる国も、当該沿岸国の明示的な同意を得ないでこれらの活動を行い又は当該大陸棚に対して権利を主張することができないという意味において、排他的である。

3 大陸棚に対する沿岸国の権利は、実効的な若しくは観念的な先占又は明示的な宣言に依存するものではない。

4 この条約にいう天然資源とは、海底及びその下の鉱物その他の非生物資源並びに定着種族に属する生物、すなわち、収穫期において海底の表面若しくは下部で静止しており又は海底若しくはその下に絶えず接触していなければ動くことができない生物をいう。」

と規定している。なお、同条約三条は、「沿岸国の大陸棚に対する権利は、その上部水域の公海としての法的地位又はその上空の法的地位に影響を及ぼすものではない。」

と規定し、同条約一二条一項は、

「いずれの国も、署名、批准又は加入の時に、第一条から第三条までの規定を除くこの条約の規定について留保を行うことができる。」

と規定している。

ところで、大陸棚条約制定の過程において、各国間で大きく意見が対立した点は、天然資源の範囲に生物資源を含めるか否かということにあつたのであり、鉱物資源の探索・開発に関し沿岸国が主権的権利を有することについては、大多数の国がこれを正当として支持していたのである。そして、大陸棚条約の採択以来今日に至るまで、鉱物資源についての右主権的権利自体を疑う国は見当たらないし、右条約の採択に反対した我が国も、鉱物資源についての右主権的権利は肯定していたのであつて、右条約に反対した理由は生物資源に関する規定部分にあつたのである。

(三) 更に、国際司法裁判所は、昭和四四年二月二〇日、西ドイツ、デンマーク及びオランダの隣接三国間で大陸棚の境界画定の問題が争われた、いわゆる「北海大陸棚事件」の判決の中で「……それは、海の中・下の方へその領土の自然な延長をなす大陸棚に関する沿岸国の権利は、領土に対するその主権により、かつ海床を探索し、その天然資源を開発するための主権的権利の行使という形における右の主権の拡張として、当然にかつ最初から存在するという規則である。要するに、ここには固有の権利がある。その権利を行使するために、何ら特別の法的手続を経る必要はなく、また何ら特別の法的行為を遂行する必要もない。その存在は宣言され得るが(そして多くの国が宣言している)、創設されることを要しないものである。その上、この権利は、それが行使されることに依存するものではない。ジュネーブ条約(大陸棚条約)の言葉を繰り返すならば、その権利は、沿岸国がそれに属する大陸棚区域の探索又は関発をしないことに決めても、それは、その国自身の問題であり、他のいかなる国も、沿岸国の明示的同意を得ないでそうすることはできないという意味で「排他的」である。」、「大陸棚に関するジュネーブ条約一二条……は、「第一条から第三条までを除いた」条約のすべての条文について留保を行うことを許している。これらの三条文は、明らかに、当時大陸棚に関する慣習国際法の受容された、ないし少なくとも現われつつある規則を反映し、又は具体化するものとみなされていたものであり、なかんずく、大陸棚の海の方への限度の問題、沿岸国の権原の法的特徴、行使し得る権利の性質、この権利が関係する天然資源の種類、大陸棚の上部水域の公海としての法的地位の完全な維持及びその上空の法的地位に関するものである。」と判示している。

(四) 以上述べた大陸棚条約採択に至るまでの経緯、同条約の内容、条約採択後の状況、北海大陸棚事件判決の判示内容等を総合して考えれば、本件事業年度当時、既に、大陸棚における鉱物資源の探索・開発に関して沿岸国が主権的権利を有するという慣習国際法が存在したことは明らかというべきである。

4  しかして、大陸棚における鉱物資源の探索・開発に関する沿岸国の主権的権利の中に、課税権も含まれるものと解すべきである。

(一) 慣習国際法上認められる大陸棚における鉱物資源の探索・開発に関する沿岸国の主権的権利は、その行使の目的が鉱物資源の探索・開発に特定され、また、大陸棚の上部水域における公海の自由を不当に妨害し得ないという点で領域主権とは異なるものの、右目的の範囲内においては主権と何ら変わらない排他的かつ包括的権能であつて、鉱物資源の探索・開発のために必要な一切の権利とこれらの活動に関連する一切の権利に及び、鉱物資源の探索・開発行為に伴つて生じた所得に対する課税権をも当然に含むものである。

(二) 諸外国においても、主権的権利の中に課税権が含まれることを当然の前提とした取扱いがなされているのであつて、我が国とノールウェー(昭和四二年五月一一日署名)、デンマーク(昭和四三年二月三日署名)、オーストラリア(昭和四四年三月二〇日署名)、オランダ(昭和四五年三月三日署名)及びスペイン(昭和四九年二月一三日署名)との間の各租税条約の議定書並びに大韓民国との間の「両国に隣接する大陸棚の南部の共同開発に関する協定」(昭和四九年一月三〇日署名、昭和五三年六月二二日効力発生、以下「日韓大陸棚協定」という。)の一七条の規定は、いずれも、右主権的権利の中に課税権が含まれることを当然の前提とした取決めないし調整を行つているのである。

三  原告の所得金額<以下、事実省略>

理由

一原告がパナマ共和国法人であり、その昭和四六年度、昭和四七年度及び昭和四八年度の各法人税の課税経過が別表一ないし三記載<省略>のとおりであることについては、当事者間に争いがない。

二<証拠>によると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  西日本石油開発は、昭和四五年三月一三日オデコ本社との間で、西日本石油開発が鉱業権を有する日本沖合の鉱区においてオデコ本社が油井の掘削作業等を行う旨の沖合掘削請負契約を締結し、原告は、同日オデコ本社から右請負契約に係る一切の権利義務を譲り受けた。西日本石油開発は、鉱業法に基づき、広島通商産業局長等から島根県、山口県及び長崎県沖の大陸棚の鉱区に石油、可燃性天然ガス等の掘削を目的とする試掘権の設定を受け、同年一一月二五日から昭和四七年四月二〇日までの間に順次その旨の登録をした。そこで、原告は、右沖合掘削請負契約に基づき、石油、可燃性天然ガス等の探索を目的として、昭和四六年二月二七日から昭和四八年七月一八日までの間に、右鉱区(いずれも日本の領海外にあるもの)内において、リグを使用し合計八本の試掘井(水深一三一メートルないし一九二メートル)の掘削作業を行い、西日本石油開発から右掘削作業に係る対価の支払を受けた(原告が右の期間にリグを使用し右八本の試掘井の掘削作業を行い、西日本石油開発から右掘削作業に係る対価の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。)。

2  帝国石油株式会社は、鉱業法に基づき、仙台通商産業局長から福島県楢葉町沖約三七、三八、三九キロメートル及び同県原町沖約四五キロメートル付近海面下の大陸棚の鉱区に石油及び可燃性天然ガスの掘採を目的とする試掘権の設定を受け、楢葉町沖の鉱区については昭和四八年五月二二日、原町沖の鉱区については同年六月二一日それぞれその旨の登録をし、更に東京通商産業局長から茨城県日立市沖約二〇キロメートル付近海面下の大陸棚の鉱区に同一物の掘採を目的として試掘権の設定を受け、同年八月二八日その旨の登録をした。一方、同社は、エッソ・アブクマとの間で、右鉱区における油井の掘削請負契約を締結し、エッソ・アブクマは、同年六月一日西日本石油開発から、同社が原告に対して有する前記沖合掘削請負契約に係る権利義務一切を譲り受け、原告に右鉱区での石油及び可燃性天然ガス探索のための試掘井の掘削作業を依頼した。そこで、原告は、同年七月二五日から昭和四九年七月八日までの間に、右鉱区(いずれも日本の領海外にあるもの)内において、リグを使用し合計五本の試掘井(水深119.5メートルないし154メートル)の掘削作業を行い、エッソ・アブクマから右掘削作業に係る対価の支払を受けた(原告が右の期間にリグを使用し右五本の試掘井の掘削作業を行い、エッソ・アブクマから右掘削作業に係る対価の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。)。

3  原告は、オーシャン・コントラクトとの間で、昭和四六年一月二五日、オーシャン・コントラクトは原告に対し、原告が日本沖合で行う海底油田及び海底ガス田の請負掘削業務に関して原告が求める事務その他の関連サービス及びデータをすべて提供し、とりわけ作業用機材等の手配・保守管理及び作業員の雇用援助を行うものとし、そのために必要な事務所及び要員を準備すること等を内容とする業務協定を締結した。更に、原告は、オーシャン・コントラクトの日本支社に対し、日本において原告に代り日本政府に対して必要な諸手続を行うなど所定の事務を処理する代理権を付与した。これに基づいて、オーシャン・コントラクト日本支社は、本件係争年度当時、前記1及び2の掘削作業(本件掘削作業)に関連し、原告の代理人として、原告の輸入貨物の評価申告書、労働者死傷病報告書及び源泉所得税納付書を作成提出するとともに、賃金、健康保険保険料、広告料等の支払をした。また、輸入申告書及び新聞広告に記載された原告の住所は、オーシャン・コントラクト日本支社のそれと同じであつた。以上のように、原告は、本件係争年度当時、オーシャン・コントラクトに対し本件掘削作業に係る事務(オフィス業務)を代行させ、同社の日本支社(本件処分当時の所在地は東京都港区芝西久保明舟町二五番地)をもつて原告の本件掘削作業に係る実質的な本拠としていたもので、右所在地は原告の納税地に該当する。

三ところで、原告のような外国法人は、法人税法一三八条に規定する「国内源泉所得」を有するときは、法人税を納める義務があり(同法四条二項)、その課税所得の範囲は、各事業年度の所得のうち同法一四一条各号に掲げる外国法人の区分に応じ当該各号に掲げる国内源泉所得に係る所得とされている(同法九条)ところ、被告は、原告の本件掘削作業による所得は同法一三八条一号が国内源泉所得の一として定める「国内において行なう事業から……生ずる所得」に該当し、原告は同法一四一条二号の「国内において……その他の作業……を一年をこえて行なう外国法人」に該当するから、原告は各事業年度の所得のうち本件掘削作業から生ずる所得について法人税を納める義務があると主張する。これに対し、原告は、原告が本件掘削作業を行つた地域は日本の領海外であつて、日本の課税権が及ばず、したがつて、法人税法の効力も及ばず。法人税法にいう「国内」に該当するいわれはない旨主張する。したがつて、本件掘削作業が行われた地域に日本の課税権が及ぶか否かがまず問題であるところ、被告は、右地域は日本の領海外ではあるが日本の大陸棚であつて、日本は慣習国際法によりこれに対し主権的権利を有し、この主権的権利により右地域に日本の課税権が及ぶと主張する。そこで、大陸棚に関する慣習国際法の存在及びその内容についてまず検討することとする。

<証拠>によると、本件係争年度当時における大陸棚に関する慣習国際法の存在及びその内容について、次のように認定することができる。

1  アメリカ合衆国トルーマン大統領は、昭和二〇年九月二八日、「大陸棚の地下及び海床の天然資源に関する合衆国の政策の宣言」を行つた。同宣言の全文は次のとおりである。

「アメリカ合衆国政府は、新たな石油及び鉱物資源に対する長期にわたる世界的規模の必要を認識し、これらの資源の新たな供給を発見して確保する努力が促進されるべきであるという見解を持ち、

その専門家の意見では、これらの資源はアメリカ合衆国の沿岸沖の大陸棚の多くの部分に存在し、かつ最近の技術の進歩によれば、その利用は既に実現可能であるか、あるいは少なくとも近く実現可能であるので、

開発が行われれば、その保存及び慎重な利用のためにはこれらの資源に管轄権を認めることが必要であるので、

これらの資源を利用しかつ保存する措置の実効性は沿岸からの協力と保護とにより、大陸棚は沿岸国の陸地の延長であつて、当然にそれに附随しているものとみなされ、これら資源はしばしば領域内にある鉱床の海の方への延長をなしており、沿岸国は自己防衛のために、これらの資源の利用に必要な沿岸沖の活動を充分監視する必要があるので、大陸棚の地下及び海床の天然資源に対して管轄権を行使することは合理的かつ正当であるというのが合衆国政府の見解であるので、

私、アメリカ合衆国大統領ハリ・S・トルーマンは、大陸棚の地下及び海床の天然資源に関するアメリカ合衆国の次の政策を、ここに宣言する。

その天然資源を保存しかつ慎重に利用する緊急な必要にかんがみ、合衆国政府は、公海下ではあるが合衆国沿岸に接する大陸棚の地下及び海床の天然資源を、その管轄と統制に服するものとみなす。大陸棚が他国の沿岸にまでのび、あるいは隣接国と共通の場合には、その境界は、合衆国と当該国とにより、公平な原則に従つて決定されなければならない。大陸棚の上部水域の公海としての性格及びその自由なかつ妨害されぬ航行の権利は、これによつて何らの影響を受けるものではない。」

この宣言自体の中には、大陸棚の範囲は明示されていないが、同時に行われた新聞発表によれば、上部水域の深度一〇〇ファソム(約二〇〇メートル)の地点までが考えられていた。

右のトールマン宣言は、公海海底の地下資源に対する各国の権利意識を呼び覚まし、大陸棚に関する国際法形成の端緒を開くこととなつた。そして、トールマン宣言に倣い、相当数の国々が大陸棚に関する宣言又は立法を行つたが、その内容は一様ではなかつた。

2  このような状況の中で、国連の国際法委員会は、昭和二四年から公海制度の法典化作業に着手し、その一環として、昭和二五年、昭和二六年、昭和二八年、昭和三一年と大陸棚に関する条項案の審議を繰り返した。同委員会は、昭和三一年、海洋法草案を採択し、これを国連に提出したが、その六八条として、「沿岸国は、大陸棚に対し、その天然資源を探索し開発するために、主権的権利を行使する。」との規定を置いた。ところで、右の天然資源が何を意味するかについては、同委員会の理解に変化がある。同委員会の昭和二六年審議における理解において、天然資源が鉱物資源にのみ限られたことは、ほとんど疑いがなかつた。同委員会の審議の基礎となつていた特別報告者フランソアの昭和二八年の「公海に関する第四報告」においては、それまで漠然と天然資源といわれていたのが、鉱物資源と明瞭に置き換えられた。しかし、昭和二八年の審議において、海底に定着している生物資源は大陸棚制度との関連で理解されるべきであるとの意見が出され、同委員会の多数により支持され、天然資源につき定着魚種を理解することが同委員会の結論となつた。

3  国連は、昭和三一年の総会において、国際法委員会の提出した海洋法草案を審議し、同委員会の勧告に従い、昭和三二年二月二一日の決議によつて、海洋法会議を招集してその結果を適当と思われる国際条約その他の文書に明文化することを決定した。海洋法会議は、昭和三三年二月二四日、ジュネーブの国連ヨーロッパ本部に招集され、同年四月二六日、大陸棚に関する条約(大陸棚条約)を賛成五七、反対三(日本、西ドイツ及びベルギー)、棄権八で採択した。そして、大陸棚条約は、四六か国によつて署名され、二二か国の批准又は加入によつて昭和三九年六月一〇日に発効した。昭和四四年三月一五日現在の批准又は加入国は三九か国である。なお、日本は、大陸棚条約に署名せず、現在も加入していない。大陸棚条約の規定は、次のとおりである。

第一条 この条約の規定の適用上、「大陸棚」とは、(a)海岸に隣接しているか領海の外にある海底区域の海底及びその下であつて上部の水深が二〇〇メートルまでのもの、又はその限度を超える場合には上部水域の水深が前記の海底区域の天然資源の開発を可能にする限度までのもの、並びに(b)島の海岸に隣接している同様の海底区域の海底及びその下をいう。

第二条 1 沿岸国は、大陸棚に対し、大陸棚を探索し及びその天然資源を開発するための主権的な権利を行使する。

2 1にいう権利は、沿岸国がその大陸棚を探索しておらず又はその天然資源を開発していない場合にも、他のいかなる国も、当該沿岸国の明示的な同意を得ないでこれらの活動を行い又は当該大陸棚に対して権利を主張することができないという意味において、排他的である。

3 大陸棚に対する沿岸国の権利は、実効的な若しくは観念的な先占又は明示的な宣言に依存するものではない。

4 この条約にいう天然資源とは、海底及びその下の鉱物その他の非生物資源並びに定着種族に属する生物、すなわち、収穫期において海底の表面若しくは下部で静止しており又は海底若しくはその下に絶えず接触していなければ動くことができない生物をいう。

第三条 沿岸国の大陸棚に対する権利は、その上部水域の公海としての法的地位又はその上空の法的地位に影響を及ぼすものではない。

(中略)

第一二条 1 いずれの国も、署名、批准又は加入の時に、第一条から第三条までの規定を除くこの条約の規定について留保を行うことができる。

(以下略)

ところで、右の国連海洋法会議において、日本、西ドイツ及びモナコは、大陸棚制度そのものを取り上げて批判の対象としたが、沿岸国が大陸棚と称されるその沖合海底地域の資源開発に独占的な権限を有するという大陸棚制度の基本理念は、ほとんどの国の承認するところであり、もはや動かし得ない状況にあつた。しかし、沿岸国の持つ権利の性質及び大陸棚制度に含まれるべき資源の範囲については、容易に意見の一致をみなかつた。もつとも、権利の性質に関する論争は、多分に観念的であり、沿岸国が大陸棚資源の開発を独占し得るということについて大きな疑問があつたわけではない。実際問題と結び付き、激しい議論の対象となつたのは、沿岸国がその開発を独占し得る資源の種類であつた。スウェーデン、ノールウェー、ギリシャ、スペイン、デンマーク、イタリアなどヨーロッパ諸国は、沿岸国が独占すべき資源を鉱物資源のみに限定すべきであると主張した。他方、ラテンアメリカの国やアイスランド、インドネシアは、大陸棚の上部水域の資源もすべて含めるべきであると主張し、この主張はほとんど問題とされなかつたものの、ビルマ、韓国等は、底魚や海底に棲息する種族をこの制度に含めるべきであると主張した。そして、大陸棚の資源にのみ限定しようとする考え方と、底魚まで含むべきだという考え方との妥協案として出されたのが、オーストラリア、セイロン、マラヤ、インド、ノールウェー、イギリスの六か国共同提案である。この共同提案は、前記大陸棚条約二条四項の文言を本文とし、これに「ただし、甲殼類及び浮游魚類は含まれない。」とのただし書を付したものであるが、結局、この本文のみが可決されることとなつた。なお、フランスは、昭和四〇年六月一四日、大陸棚条約への加入に際し、二条四項について、「定着種族に属する生物とは、ふじつぼと呼ぶクラブを除き甲殼類はここから除外されているものとフランスは考える。」との解釈宣言を行つた。

4  国際司法裁判所は、昭和四四年二月二〇日のいわゆる北海大陸棚事件判決において、次のような判断を示した。

「一九五八年のジュネーブ条約(大陸棚条約)に据えられた大陸棚に関するすべての法の規則の中で最も根本的なもの……それは、海の中・下の方へその領土の自然な延長をなす大陸棚に関する沿岸国の権利は、領土に対するその主権により、かつ、海床を探索し、その天然資源を開発するための主権的権利の行使という形における右の主権の拡張として、当然にかつ最初から存在するという規則である。要するに、ここには固有の権利がある。その権利を行使するために、何ら特別の法的手続を経る必要はなく、また何ら特別の法的行為を遂行する必要もない。その存在は宣言され得るが(そして多くの国が宣言している)、創設されることを要しないものである。その上、この権利は、それが行使されることに依存するものではない。ジュネーブ条約の言葉を繰り返すならば、その権利は、沿岸国がそれに属する大陸棚区域の探索又は開発をしないことに決めても、それは、その国自身の問題であり、他のいかなる国も、沿岸国の明示的同意を得ないでそうすることはできないという意味で「排他的」である」

「近接性の観念よりもつと根本的なのは、沿岸国の完全な主権の下にあるその領海の海床を経由して、公海の中・下の方へ延びるその国の領土又は領土主権の自然な延長又は連続という原則……であると思われる。この原則を定式化する仕方はさまざまある。しかし、その基礎的観念、すなわち、既に所有されているものの延長という観念は同じであり、そして、裁判所の意見では、決定的なのは、この延長という観念である。実際に、海底区域は、それが沿岸国に近いという理由で……沿岸国に属するのではない。もちろん、海底区域は沿岸国に近い。しかし、これは権限を付与するには十分でないであろう。……国際法が、大陸棚に関して沿岸国が有するとする法律上当然の権原を付与するもの、それは、関係海底区域が、現実に、沿岸国の領有している地域の一部とみなし得ることである――海におおわれているが、その領土の延長又は連続であり、海の下へ延びるその拡大であるという意味において。」

「一般的にいつて、規則や義務に関しある限度内で一方的留保を行う権利が認められることは、純然たる条約上の規則及び義務の特徴だからである。しかるに、本来国際社会のあらゆる組成国に対して相等しい効力を有しなければならず、それゆえ、どの組成国も、自分に都合のよいように勝手に行使し得る一方的除外の権利の対象とはなり得ない一般法ないし慣習法の規則及び義務については、そういうことはあり得ないのである。したがつて、いかなる理由によつても、この種の規則及び義務が条約のある規定の中に具体化されているか、又は反映されるように意図されている場合には、当該規定は、それについて一方的留保の権利が付与されないか、又は排除される規定として掲げられるものと予想しなければならない。この予想は、大体に大陸棚に関するジュネーブ条約第一二条によつてみたされている。それは、「第一条から第三条までを除いた」条約のすべての条文について留保を行うことを許している。これらの三条文は、明らかに、当時大陸棚に関する慣習国際法の受容された、ないし少なくとも現われつつある規則を反映し、又は具体化するものとみなされていたものであり、なかんずく、大陸棚の海の方への限度の問題、沿岸国の権原の法的特徴、行使し得る権利の性質、この権利が関係する天然資源の種類、大陸棚の上部水域の公海としての法的地位の完全な維持及びその上空の法的地位に関するものである。」

5  以上のように、トルーマン宣言を先駆とする各国の大陸棚に対する権益主張や国連国際法委員会における審議を通じ、大陸棚に関する国際法が次第に形成されてゆき、国連海洋法会議における大陸棚条約の採択とその後の国際慣行ないし国家実行(ちなみに、ラフス判事は、国際司法裁判所北海大陸棚事件判決における反対意見の中で、現在約七〇か国が大陸棚区域の探索及び開発に従事していることは注目に値すると述べている。)は、大陸棚条約一条ないし三条の中に織り込まれた大陸棚制度の基本理念を、慣習国際法上の規則となし、右慣習国際法の存在は、国際司法裁判所北海大陸棚事件判決により確認された。

ただし、大陸棚条約一条ないし三条の規定の全部が慣習国際法上の規則になつたとはいえない。国際司法裁判所の右判決も、「これらの三条文は、明らかに、当時大陸棚に関する慣習国際法の受容された、ないし少なくとも現われつつある規則を反映し、又は具体化するものとみなされていたものであり、」と述べ、三か条すべてが慣習国際法として既に受容された規則であるとは述べていない。

大陸棚条約二条四項は、沿岸国が開発を独占し得る資源として「定着種族に属する生物」を含めているが、前叙のとおり、定着生物資源を含めることについては、国連の国際法委員会及び海洋法委員会において激しく意見の対立したところである。本来、大陸棚制度は地下鉱物資源の沿岸国による開発独占という発想から出発したものであり、また、鉱物資源の開発と定着種族の漁業を一体不可分のものとして把握すべき必然性もない。定着種族に属する生物が大陸棚資源の中に組み入れられたのは、海洋法会議における国家間の妥協の結果にすぎない。その上、六か国共同提案には「ただし、甲殼類及び浮游魚類は含まれない。」とのただし書が付されていたこと、フランスが「ふじつぼと呼ぶクラブを除き甲殻類はここから除外されているものとフランスは考える。」との解釈宣言を行つていることからもうかがえるように、「定着種族に属する生物」という概念自体が多様な解釈を許容し、必ずしも明確とはいえない。したがつて、定着種族に属する生物の補穫を沿岸国が独占し得るということは、大陸棚条約により立法された規則というべきであり、慣習国際法上の規則とはいえない。そして、右の規則が大陸棚条約成立後において慣習国際法に成長したことを認むべき資料もない。

一方、大陸棚条約一条ないし三条に盛り込まれた規則のうち、定着生物資源に関するものを除く部分は、大陸棚制度の基本をなすものであり、大陸棚条約の採択とその後の慣行により、どんなに遅くとも昭和四四年二月の国際司法裁判所北海大陸棚判決の時点までには、慣習国際法となつたと認められる。

6  したがつて、日本は、大陸棚条約に加入していなくとも、本件係争年度当時、慣習国際法上の権限として、日本の大陸棚(日本の海岸に隣接しているが日本の領海の外にある大陸棚)に対し、大陸棚を探索し、その鉱物資源を開発するための主権的権利を行使することができた。主権的権利の性質・内容は、次のとおりである。

(一)  国の領域主権(Sovereignty)は、国がその所属する領域(領土、領海及び領空)に対して、一般的かつ排他的に、そして国が自由に定める目的を実現するために統治機能を行う権利である。大陸棚に対する主権的権利(Sovereign Rights)は、領域主権の公海海底地域への延長であるが、主権としないで主権的権利とする理由は、この権利が大陸棚を探索(未だ埋蔵されている資源が知られていないときに大陸棚そのものをさぐること。)しその鉱物資源を開発(その存在の知られた資源を採掘すること。)するという目的によつて制限され、更に、この目的の実現に必要な限度においてのほか、上部水域及び上空の公海又は公空としての地位には何ら影響を及ぼすことができず、その自由を妨げるものではないことに基づく。しかし、大陸棚に対する主権的権利は、大陸棚の鉱物資源の探索・開発に必要な、又はそれに関連するすべての主権的な権利、すなわち立法、行政及び司法権を含む。すなわち、目的においては制限されるが、右目的の範囲内においては完全な性質を有し、包括的かつ排他的であつて、領域主権と異なるところがない。

(二)  したがつて、大陸棚に対する主権的権利は、主権の一側面たる課税権を当然に含むものである。すなわち、大陸棚に対する主権的権利は、大陸棚の鉱物資源の探索・開発又はこれらに関連する活動を対象とする限り、領域主権の延長であつて、これらの活動を属地的に管轄するものであり、したがつてこれらの活動から生じた所得を国内源泉所得とみなして課税することができる。なお、自己のための探索・開発ではなく、請負契約に基づく役務の提供であつても、大陸棚の鉱物資源の探索・開発に関連する限りは、主権的権利の前記目的の範囲に包含され、大陸棚上で行われる限りは、属地的管轄権の範囲内のものとして課税の対象となり得る。

(三)  大陸棚に対する主権的権利は、領域主権の公海海底地域への延長という概念に基づくものであつて、国家固有の権利であり、実効的若しくは観念的な先占又は明示的な宣言に依存するものではない。したがつて、主権的権利の行使に先立ち、明示的国家宣言を必要とするものではなく、特別の法的手続ないし法的行為を経由する必要はない。

四ところで、原告は、日本が大陸棚に対する主権的権利を行使することは許されない、と主張する。

1  まず、原告は、日本は本件係争年度当時大陸棚に対する主権的権利を享受する旨の対外的意思表示をしていないから、右主権的権利を主張することはできない、と主張するが、主権的権利の行使につき対外的意思表示を要するものでないことは、前叙のとおりである。

2  次に、原告は、日本は従来から大陸棚条約一条ないし三条に関して否定的見解を表明してきたから、慣習国際法に基づく主権的権利を主張することは禁反言の法理上許されない、と主張する。

日本が国連海洋法会議において大陸棚条約に反対し、現在も同条約に加入していないことは、前叙のとおりであり、また、<証拠>並びに鑑定人山本草二の鑑定の結果によると、昭和四三年六月二六日の国連深海底平和利用特別委員会法律作業部会において、日本政府代表は、大陸棚概念が既に国際慣習法規になつているかどうかはなお疑問の余地があると述べたこと、しかし、昭和四四年二月二六日の衆議院予算委員会第一分科会において、外務省条約局法規課長は、「外務省の条約局といたしましては、実は、この大陸棚条約というものの内容に盛られております規定は、一般国際法、慣習国際法を法典化した部分と、そうでない立法的部分とがあると考えております。もつと具体的に申しますと、大陸棚の地下鉱物資源の開発、探査について、沿岸国が主権的権利を行使し得るという点は一般国際法となつた。この大陸棚条約の規定はそれを法典化したにすぎない部分と考えます。ただし、生物資源の問題につきましては、これは、私どもといたしましても、立法化の部分であつて、したがつて、大陸棚条約に日本が入らない限り、日本はこれの拘束を受けないというふうに考えておるわけでございます」と答弁し、同年三月二四日の参議院予算委員会において、外務大臣も同旨の答弁をなしたこと、更に、日本は、昭和四二年五月一一日のノールウェーとの、昭和四三年二月三日のデンマークとの、昭和四四年三月二〇日のオーストラリアとの、昭和四五年三月三日のオランダとの各租税条約議定書において、「国際法における大陸棚の地位に関する日本国政府の立場を害することなく」との留保を付しながらも、相手国の大陸棚における地下鉱物資源の探査及び採取又はこれらに関連して日本の居住者が取得する所得に対し相手国が課税することを承認していることが認められる。

日本が本件係争年度当時において、大陸棚に対する他国の主権的権利を否定する等、前記慣習国際法上の規則に反する国家行動に及んでいるというのであればともかく、かつて国際会議の場で国益擁護の立場から反対意見を述べたことがあるというだけで、慣習国際法上の権利を享受できなくなつたり、あるいは権利享受のため特別の宣言等を必要とするいわれはない。そして、日本は、遅くとも昭和四二年五月のノールウェーとの租税条約締結の時点では、他国の大陸棚に対する主権的権利を肯定し、また、遅くとも昭和四四年二月の外務省条約局法規課長の国会答弁の時点では、前記大陸棚に関する規則が慣習国際法上のものであることを確認しているのであるから、本件係争年度当時大陸棚に対する主権的権利を行使することに何の妨げもないものというべきである。

3  また、原告は、日本は従前から慣習国際法に基づく主権的権利は鉱物資源のみに限定され、生物資源は含まれないとの立場をとつているところ、これは慣習国際法の原則に違反するものであるから、日本が鉱物資源に関する部分のみを援用して権利を主張することはできない旨主張する。

しかしながら、大陸棚の生物資源の捕獲についてまで沿岸国が独占的権限を行使し得るということが慣習国際法上の規則として受容されたものといえないことは、前叙のとおりであるから、原告の主張は前提を欠き失当である。のみならず、大陸棚制度は、沿革的に、地下鉱物資源とりわけ海底石油の沿岸国による開発独占の問題として論じられてきたのであり、また、鉱物資源の開発と魚類の捕獲とは、本来、異質のものであつて、これを同じ制度に従わしめる必然性はないから、生物資源を主権的権利の対象とすることに反対の態度をとつたからといつて、鉱物資源に対する主権的権利の行使が許されなくなるいわれはない。

4  なお、原告は、大陸棚に対する主権的権利には課税権は含まれておらず、また、仮に課税権が含まれるにしても、それは大陸棚から採取された天然資源より直接得られた所得、少なくとも大陸棚における探索・開発事業から得られた所得のみを対象とすることができ、掘削請負契約に基づく役務提供の対価を課税対象とすることは許されないと主張するが、右の主権的権利は、鉱物資源の探索・開発に必要とされ又はこれに関連する一切の権利を包含し、その実質において主権と異なるところのない包括的な権能であつて、当然に課税権を含み、鉱物資源の探索・開発に関連し大陸棚において提供される役務の対価をも課税対象とすることができることは、前叙のとおりである。

五以上のように、日本は、その大陸棚に対し、課税権を含む慣習国際法上の主権的権利を行使することができるが、この課税権を行使して現実に租税を課するためには、租税法律主義の要求するところに従い、納税義務者、課税物件、その帰属、課税標準、税率等の課税要件のすべてが法律で定められていなければならないことは、いうまでもない。

大陸棚に対する主権的権利は、前叙のとおり、領域主権の公海海底地域への延長という概念に基づくものであり、大陸棚の鉱物資源の探索・開発という目的の範囲内での領域主権の発現である。したがつて、日本の大陸棚に対しては、鉱物資源の探索・開発に必要な又はこれに関連する範囲で、かつ、上部水域・上空の公海・公空の自由を不当に妨害しない限度において、日本の属地的管轄権が及び、その結果として日本の法律の効力が当然に及ぶのである。法人税法もその例外ではなく、右の目的に関し大陸棚に適用されるものである。すなわち、法律の効力の及ぶ地域は、特別の定めのない限り、日本の属地的管轄権の及ぶ地域であるところ、法人税法についてはその施行地域が特に定められていないから、日本の属地的管轄権の及ぶ地域がその施行地域となり、大陸棚においてもその規定が有効に発動し、作用するのである。したがつて、法人税法の課税要件に該当する限りは、大陸棚における鉱物資源の探索・開発及びこれに関連する経済活動について納税義務が発生し、これに対し課税を行うことが可能というべきである。

原告は、大陸棚の鉱物の探索・開発による所得に対し課税することは、憲法八四条の「あらたに租税を課」す場合に該当するから、特別の国内立法措置を必要とする、と主張する。従来、法人税法の施行地とされていなかつた大陸棚について、法人税法を施行するためには、新たな立法措置を要するとの趣旨と解されるが、法人税法の施行地域は日本の属地的管轄権の及ぶ範囲と同じであり、主権ないし主権的権利の効力によつておのずと定まるものであつて、大陸棚に対する沿岸国の主権的権利が慣習国際法によつて受容されるに及び、大陸棚は鉱物資源の探索・開発という目的の範囲内で当然に法人税法の施行地となり、大陸棚に法人税法を施行するについて特別の立法措置を要するものではない。また、原告は、大陸棚とは「……水深二〇〇メートルまでのもの、又はその限度を超える場合には上部水域の水深が前記の海底区域の天然資源の開発を可能にする限度までのもの」をいうとされているところ、この「開発可能限度」、したがつて法人税法の施行範囲を税務当局において決定できることになれば、税務当局の恣意を許す結果になる、と主張する。「開発可能限度」の問題は、慣習国際法の解釈の問題であつて、立法さえすれば当然解決できるという問題ではないが、それはともかくとして、本件は、前叙のとおり、最大水深一九二メートルの海域における掘削作業が対象になつているところ、前記三掲記の証拠によれば、大陸棚が少なくとも水深二〇〇メートルのところまでを含むことについては、現在国際法上全く異論のないところであることが認められる。したがつて、少なくとも水深二〇〇メートルまでの大陸棚に法人税法が施行されることは明白であつて、「開発可能限度」の問題を本件において論ずる必要はない。

六そこで、原告の本件掘削作業によつて得た所得が法人税法一三八条の国内源泉所得に該当するか否かについて検討するに、同条一号は、国内源泉所得の一として、「国内において行なう事業から……生ずる所得」を掲げているところ、同法二条一号は、「国内」の定義として「この法律の施行地をいう。」と規定している。鉱物資源の探索のための本件掘削作業が行われた地域は、日本の沖合で水深最高一九二メートルの地域であり、日本が鉱物資源の探索・開発について主権的権利を有する大陸棚、したがつて鉱物資源の探索・開発に関し法人税法の施行される地域であり、同法上の「国内」に該当することは明らかである。そうだとすれば、本件掘削作業による所得は、法人税法一三八条一号の「国内において行なう事業から……生ずる所得」に該当するものというべきである。また、原告は、法人税法一四一条二号の「国内において……その他の作業……を一年をこえて行なう外国法人」に該当するから、各事業年度の所得のうち本件掘削作業による所得について法人税の納付義務を負うものである。

そして、本件掘削作業の本件係争年度における所得金額については、原告が本件掘削作業に使用したリグの減価償却費の点を除き、当事者間に争いがない。

右の減価償却費について、原告は、本件係争年度の各利益等報告書はパナマ共和国の法律及び会計原則に準拠して作成され、減価償却費は耐用年数一二年の定額法により算定されているが、日本が課税権を行使する際には日本の法令に従い五年の耐用年数によつて算出すべきであると主張する。法人税法一四二条の規定によると、外国法人の国内源泉所得に係る所得の金額は、当該国内源泉所得に係る所得について同法第二編第一章第一節第一款から第六款まで(内国法人の各事業年度の所得の金額を計算)に準じて計算した金額とされているところ、右規定中の同法三一条一項の規定によると、「内国法人の減価償却資産につき償却費として第二二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額のうち、その内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額とする。」とされている。被告が本件処分に当たり、原告の確定した決算に基づいて作成された各利益等報告書に記載された減価償却費の額を基礎として損金に算入される額を計算していることは、当事者間に争いがないから、被告は法人税法三一条一項の規定に従い原告が確定した決算において損金経理した減価償却費の額を基礎として損金に算入される額を計算していることが明らかであり、その計算方法に違法はない。したがつて、原告の主張は理由がない。

以上によれば、原告の事業所得金額は、昭和四六年度が一億一五八九万三五三〇円、昭和四七年度が二億九八三九万八五九一円、昭和四八年度が二億五六九五万七〇二九円となる。

したがつて、原告は、右所得金額につき、納税地(前記)二3の東京都港区芝西久保明舟町二五番地)を所轄する被告に対し法人税の納税申告書を提出すべきところ、その提出がなかつたため、被告において本件処分を行つたものであり、本件処分の所得金額は、昭和四六年度及び昭和四七年度については右所得金額と同額であり、昭和四八年度については右所得金額の範囲内にあるから、本件処分はいずれも適法であるというべきである。

七なお、原告は、本件処分のうち無申告加算税の賦課決定は国税通則法六六条一項ただし書の規定に違反する旨主張する。そこで、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められるか否かについて検討する。

1  原告は、国土総合開発株式会社の一〇〇パーセント出資に係るジルド・インターナショナルと、オデコ本社の一〇〇パーセント出資に係るカナム・オフショア・リミテッドとが、それぞれ五〇パーセントずつ出資して設立した会社で、海底石油及びガス井の掘削、開発等を事業目的としており(この事実は当事者間に争いがない。)、大陸棚における鉱物資源の探索・開発に関する前記慣習国際法、これに対する日本の対応及び日本の租税法を知悉していると認められる。

2  原告の本件掘削作業は、日本政府が当該大陸棚を鉱業法の施行地と認定し、同法に基づき西日本石油開発又は帝国石油株式会社に対し設定した試掘権を基礎とするものである。

3  <証拠>によると、原告は、本件掘削作業に用いるためオデコ本社から取り寄せた機械等について、関税法による関税を納付し、本件掘削作業に従事させるため雇用した従業員に係る源泉所得税を納付したことが認められる。

4  <証拠>によると、パナマ共和国法人ダウエル・シュランベルジャー・(ウエスターン)エス・エーは昭和四六年一一月一三日国税庁に対し、日本沖合の大陸棚において石油探索のため提供される役務等の対価が国内源泉所得に該当するかを照会し、昭和四七年六月二三日該当する旨の回答を得たこと、パナマ共和国法人シュランベルジャー・ロゲルコ・インコーポレーテッドは、同年八月二九日国税庁に対し、同旨の照会を行い、昭和四九年六月二一日同旨の回答を得ていること、本件処分以前において、大陸棚における鉱物資源の探索に係る所得を国内源泉所得として申告した外国法人があつたこと、原告は、税務当局に対し、右のような照会は行つておらず、逆に、昭和四八年に東京国税局から税務申告を行うよう指導を受けたことが認められる。

以上の事実を総合すれば、原告は、本件掘削作業を行つた大陸棚において、鉱物資源の探索・開発に関しては日本の法律が施行され、本件掘削作業につき法人税納付義務の問題があることを認識していたものと認められ、それにもかかわらず税務当局に対し確認もせず(その上、昭和四八年の段階では税務当局から納税申告を行うよう指導されたにもかかわらず)、納税申告書の提出を怠つたのであるから、期限内申告書を提出しないことにつき正当な理由があるものと認めることはできない。

八また、原告は、本件処分に係る異議申立て及び審査請求についての審理手続が著しく遅延したこと並びに異議決定書及び審査裁決書の理由附記に不備があることを理由として、本件処分の違法を主張するが、これらはいずれも本件処分後の異議申立手続及び審査請求手続に固有の違法事由であつて、本件処分自体の違法事由となるものではないから、原告の主張はそれ自体失当といわなければならない。

九以上のとおり、本件処分には何ら違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(泉徳治 大藤敏 菅野博之)

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